Treasure Reports
第一編 東北新幹線(東京−盛岡)
第十三章 蔵王トンネル

第三節 現地調査(1)

南坑口〜藤田工区
まずは福島方の坑口からである。

東北本線藤田を出て越河峠に向けて登りだそうとする辺りで早くも新幹線は闇の世界へ突入する。

坑口は当初補強型の標準的な物にする予定だったが、山陽新幹線トンネル微気圧波が問題視されるようになり緩衝工を取り付けた。既に出来上がっていたトンネルでは後付けになるのだが、竣工の遅れたこの南坑口はコンクリートの作りつけとなったのである。

この坑口、おそらく結構な人が何気なく眺めているはずだ。
なぜかというと、トンネルの反対側はこれ。
下側が東北自動車道なのだ。

福島を通過するだけで縁もゆかりも無い人であっても、この緑色の鉄桁と蔵王トンネルの坑口は通り際にふと目をやった人も少なくないだろう。折良く新幹線と出会ったりなぞした暁には、特に小さい子供にとっては拍手喝采のイベントである。

高速道もこの場所から登坂が始まる。下りは勾配渋滞、上りは加速がつきやすく危険なところなのでくれぐれもご注意を。
運転手は脇見なんぞしてられない緊張を強いられる。
公開時期には季節はずれだが撮影時期は3月の下旬。
桜はまだこれからで、写っているのは梅の花だ。

同時期に計画され建設された2つの交通網が、緑と赤の絶妙なコントラストを見せている。
開業した当時はまさに高速交通時代の幕開けとして大変象徴的な光景だったに違いない。










トンネルにつきものの非常口は、場所が場所だけに階段が精一杯だ。

藤田工区の坑外設備は、写真左の盛土(というか、山を切り取ったというのが正しいだろう)の上に展開した。実は上の写真はその坑外設備跡から撮影したものだ(そのため高速道路より視線が上になっている)。








高架の橋台に取り付けられた竣工時期を表すプレート。

この時期、二度のオイルショッ公害問題環境アセスメント法の施行、国鉄債務の増大など鉄道建設に対して後ろ向きな社会情勢が積み重なっていった。この藤田工区周辺に限らず、用地確保にはマイナス要因ばかりだったのである。
基本的に地権者との交渉による理解と説得、信用が前提。やむを得ず強制収用することになった後味の悪さは月日が経っても消えないものらしい。なぜか工事誌はこの用地確保の項をかなり泥臭く、詳細な人間模様までも書いていのが興味深い。人の協力あっての話だからなのかも知れない。
坑口上部に鎮座まします扁額は、当時の松平勇雄福島県知の揮毫によるものである。反対側の白石蔵王方坑口城県知事が揮毫した。

この大きさの御影石を取り寄せるのが大変だったと工事誌には記されている。











石母田工区
東北本線脇の道路を通って高速道路をくぐる。
三カ所くらいそういう場所があるが、もっとも南側の道路が石母田横坑に直接行ける道である。

…ただ、道幅は極端に狭くてすれ違いは不能。筆者はコンパクトカー乗りだがぎりぎりだ。軽ならば多少は楽であるが、扇状地の中腹にあるため結構な上りで、今度は馬力が不足するかも知れない。

レール工法で大規模な坑外設備を展開していたことが「工事写真画報」に見て取れる。そのためか横坑口の前だけこのような平地が広がっている。
両側は果樹園と畑だ。
時期が悪いと果樹泥棒に間違われかねない(福島トンネルの幸道斜坑も、そういえば同じことを書いたことを思い出す)のが難点だが、春先にはこうして果樹園側の側溝伝いに横坑口へ迫ることができる。ただ最近流行のグレーチン(側溝蓋)泥棒と間違われても筆者は何の責任も取らない。

それはさておき、特に横坑の名前が書いてあるわけでもなく質素な面構えだ。
横坑の長さはたった67mしかないので、新幹線の通過音は結構な大きさだ。
で、通過の際にひときわ変な音を立てるのが右手前の蓋らしき物なのだが…。



同じような蓋は門扉前にも存在する。
これが新幹線の通過に合わせてカタカタ鳴るのだ。

そして断続的な水流の音もする。














赤茶色の蓋は恐らくためますか何かなのだろうが、そこから先ほどの側溝に導かれた水はこの施設に取り込まれる。

立入禁止以外に何も書かれていないのだが、これは恐らくこの地区の渇水対策設備のはずである。
工事誌p.460,461によれば、飲料水は上水道整備もしくは新水源の確保、農業用水はトンネル坑内水の分配によるものだそうだ。





少し引いて建物の全体を収めることにする。

このように、後ずさりしただけで高度がみるみる下がっていく。
そんな場所である。














今度は逆に門扉前から国見町の中心部を望む構図で撮影したものだ。

目の前を横切るのが東北自動車道である。残念ながら防音壁が高く、道路側からこの場所をうかがうのは非常に困難だ。

それにしても、向かうところ必ず水の問題がつきまとうのはトンネルの宿命とも言える。本来の用地取得や工事に掛かる費用より、こうした補償や施設の維持費のほうが後々高く付いてしまうのだ。

最近は工法の進化で長い斜坑・横坑が可能となり、本坑位置による水脈への影響はより小さくできるようになったようだ。
次回は北半分、原工区中ノ目工区の取材レポートです。


第三節 現地調査(2) へ続く

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