Treasure Reports
第一編 東北新幹線(東京−盛岡)
第十二章 那須トンネル

第二節 事前調査

調査資料

那須トンネルの調査において非常に有用な情報となるのが、「東北新幹線工事誌 雀宮・黒川間」である。
東北新幹線工事誌は、先行完成した小山実験線部分と大宮以南を別とした三分割の構成になっているが、同じ国鉄の監修ながら記述法や体裁に若干の違いが見受けられ、興味深い。以前「黒川・有壁間は内容が端折りすぎで残念」と記したが、この那須トンネルに関しては「雀宮・黒川間」でもっとも大工事となったせいか記述が細かい。p.620-66546ページを割り当てている。
また、上野第二トンネルのレポートで紹介した、札幌の古本屋から通販した「東北新幹線建設工事写真画報」も、p.135-p.138
に参考となる写真が掲載されている。

那須トンネルの施工期間は、昭和47(1972)年7月〜昭和54(1979)年3月である。従って航空写真も施工期間中に撮影されている可能性が高い。

工区割

那須トンネルの縦断面は上図のようになる(参考:工事誌p.620図6-5-5-1p.639図6-5-5-17)。
4つの工区に分割され、中間からも立坑2斜坑1をもって掘削が行われた。
全体的に土被りが薄く、針生工区などは平均で15m程度しかない。その上、シルト層ローム層といった自立性に欠ける地盤が大半を占めたため、工事の進捗率は悪かったようだ。

それでは例によって、各工区の状況を航空写真から眺めてみることにしよう。

南坑口〜前原工区

前原工区は、航空写真が撮影された1975(昭和50)年の段階ではまだ工事が始まっていない。

この区間は土被りが0〜0.7mということもあり、全断面開削によって工事が行われた。トンネルの断面は函型である。























針生工区
二番目の針生工区は延長2080m、その始点近くに深さ10m立坑を設置して始まった。
当初は底導先進上半工法で進める予定であったが、土被りと地盤強度の問題から、立坑より東京方全開削盛岡方イロット工法になったという。

工事誌p.628図6-5-4-6を見ると、写真上で何やらごちゃっとしている辺りに立坑スキップが組まれているようだ。
それより少し南にもう一つ角穴が空いている気がするのだが、恐らく開削工法に変更になった区間の施工中であると思われる。


この工区には、立坑以外にも興味深い物が何点か写っている。
左の写真は、茶色くなっている部分にトンネル本坑が通っているはずで、その脇に角穴のようなものがある。
これは一体何だろう。

土地全体がまっさらなのも不思議である。何かを行った跡なのだろうか。しかし、他の現場が工事たけなわである時期にしては、片付き過ぎているような気もする。







そしてさらに北に行くと、本坑の位置に該当する地表が禿げ上がっているような場所に出くわす。
工事誌p.629-632を読むと、この場所は土被りが0〜4mで補強が必要であったが、小川を汚染しないよう薬液注入ではなくCCP(Chemical Churning Pile)工法を使用したとある。
地面に穴を開けて、土とセメント材を攪拌しながら固結化することで地中に杭のようなものを形成する手法である。
これによりこの区間は開削ではなく、サイロット工法で無事に掘削している。



松沼工区
三番目の松沼工区は、小さな集落のはずれに設けられた。
本坑アクセスは深さ25m立坑によっている。

写真には、かなり鮮明な形でスキップ(エレベーター)が写っている。事務所群や骨材びといったものも窺える。

南側には土捨場とおぼしき場所も見える。



















矢ノ目工区
最も盛岡方の工区である矢ノ目工区は、出口方からの片押しではなく起点方寄りに斜坑を設けて工事が行われた。
斜坑は勾配1/4、延長217.8mで本坑に合流している。

航空写真からでは分かりにくいが、現場は斜坑口に向かってなだらかに下るような地形になっており、斜坑の向きはその斜面に対して反対、つまり道路に背を向けている。


















矢ノ目工区の終点、盛岡方坑付近である。
トンネルの坑口とおぼしき筒状の物体がある以外、まだ線形が読めないほどに工事が進んでいない。
黒川も現在は大規模な改修と流路変更が行われており、様子が異なる。













このように、那須トンネルについては潤沢な資料が揃い、また見所もたくさん存在します。
あまり資料に頼りすぎると「見ようとしたものしか見えなくなる」ので、その辺は留意しなければなりません。
次回は前原・針生工区の現地取材をお伝えする予定です。


第三節 現地へ行く(1) へ続く

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