Treasure Reports
第二編 上越新幹線(大宮−新潟)

第五章 中山トンネル
駅間:高崎−上毛高原 位置:大宮起点101k879m−116k709(+27)m 全長:14,857m


第一節 史上最悪の山


上越新幹線 中山トンネルは、群馬県渋川市(旧北群馬郡小野上村)から利根郡みなかみ町(旧月夜野町)に至る、全長15km弱の山岳トンネルである。
上越新幹線ルート選定の際、高崎から大清水トンネルまでを一直線で結ぶことが至上命題となり、結果として高崎−上毛高原間に榛名・中山という15km程度の長大トンネルを2本を掘ることになった。
中山トンネルは、西に小野子山、東に子持山という死火山と、その火山活動堆積物からなる馬の背のような地形の中間を、深さ400〜200mをもって貫くこととなった。従って、工期短縮のために中間から掘削しようとすると、斜坑や横坑では3kmを確実に超えてしまい現実的ではない。このためトンネルのほぼ真上の地上から、前例のない350m級の立坑3本を掘削し、工事が進められた。
このトンネル、上越新幹線のトンネルの中ではつとに有名である。それも実に不名誉な理由で。曰く、

以下の文章は、工事誌を再確認の結果誤りであることが判明しました。工費のみをメモ書きし、原本を複写しなかったために起きた問題で、正確さを旨とする当サイトとしてはあるまじき失態であります。
この場をお借りしてお詫び申し上げます。 
  総工費が計画の4倍にまで膨れあがり、全長比では青函や大清水をもぶっちぎりダントツ(2108億6200万円8429億9900万円5674万円/1m)
 正確な内容は以下の通りです。
 ・工事費は約1250億円、m単価は839万円にも上り、青函(約770万円/m)大清水(約220万円/m)をも凌駕する規模となった
 ※第七節に出典および詳細を記しておきます。

・異常出水によるルート変更で規格外の曲線(R=1500m)を挿入したため、本区間の160km/h運転を余儀なくされた
・工事のずれ込みで東北新幹線との同時開業ができなくなった

なぜこのような事態になったのだろうか。
同時期に掘られていた青函トンネルは、全長も世界一、海底下の工事とあって異常出水等の事故も多く、多数の犠牲者が出て世間の注目を集めていた。ところが、その当時の工事関係者をして「青函よりもひどい」と言わしめたほどの難工事が、この月並みな名前を持つトンネルに待ち受けていようとは誰にも予想できなかった。

正直言って、筆者は最近まで真実を知らなかった。異常出水でルート変更したトンネル、という程度の理解で済ませていた。それが福島トンネルの調査がてら、たまたま一緒に借りた上越新幹線の工事誌をひもとくと、そこには直接の犠牲者が出なかったのが奇跡と言えるほどに底知れぬ恐怖の一幕が、淡々と綴られていたのである。
「見に行くしかない。」−それまでは遠いからと消極的だった私を変えたのは、中途半端な知識に対する慚愧の念であった。

「本トンネルを知らずして、トンネルの何たるかを語るべからず」と…。


第二節 災禍の正面突破 へ続く


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